ファッシア(筋膜)に起因する回旋運動連鎖障害に対して、円皮鍼などの浅い鍼を用いて、鍼を貼付したままで動きにアプローチしていく運動鍼法がロト鍼療法です。

皮膚をターゲットにした針長2㎜以内の円皮鍼(図13、図14、図15)を使用する弱刺激な鍼治療であるのと同時に、筋の収縮様式を考慮しつつ、円皮鍼を皮膚に刺入し、それに回旋運動を加えることで、皮膚から深部へと続くファッシアの原線維のネットワークシステムに働きかけることで、身体の動きを改善すると共に、健康に寄与しようとするのがロト鍼療法の目的です。

従ってこの治療法は、局所治療に留まらず、むしろ全身調整目的としての本治法効果が期待できます。

図13:円皮鍼(セイリン社製PYONEX) 
図13:円皮鍼(セイリン社製PYONEX) 
図14:PYONEXの種類
図14:PYONEXの種類
図15:PYONEXによる侵襲深度想像図
図15:PYONEXによる侵襲深度想像図

①筋の収縮様式とロト鍼療法

ロト鍼療法は、皮膚をターゲットにした鍼治療法であると同時に、皮下組織や骨格筋の収縮様式と連動させた鍼治療でもあります。その理由は、筋収縮の違いにより、物理的には同じ刺鍼行為であっても、出る効果に大きな差が生じることを発見したからであります。
通常の鍼治療の臨床では、刺鍼部位は弛緩させるのが常識とされてきましたが、同じ刺鍼刺激であっても、刺鍼点となる部位(筋やファッシア)、皮膚が弛緩している場合と伸張している場合、更には、収縮している場合とでは、その効果に大きな違いが出ることが分かりました。ロト鍼療法では、目的に合わせて、刺鍼部位を伸張させるか、収縮させるかのどちらかに区別して刺鍼するようにしており、この2つの刺鍼法の使い分けを行っています。
筋が硬くなった緊張状態には、2つのパターン(短縮性収縮固定と伸張性収縮固定)が存在します(図16)。両者の間には、根本的にメカニズムの違いがあります。

図16:短縮性収縮固定と伸張性収縮固定時の筋収縮
図16:短縮性収縮固定と伸張性収縮固定時の筋収縮

例えば、肩こりを伴う猫背姿勢(図17)の場合、前胸部の筋は、短縮性収縮固定と言って、オーバーユースの結果縮こまり、本来の長さに戻れず、可動性を損なった状態となっていますが、後ろの肩背部の筋は、伸張性収縮固定と言い、伸びきってしまい、収縮力を発揮できずに固まってしまっている状態であります。前も後ろも緊張していることには違いありませんが、双方の間には、全く異なるメカニズムが存在しているのです。
短縮性収縮固定を起している前胸部は、伸張性を高め、可動域を広げるように施術する必要があるのに対し、伸張性収縮固定を起している肩背部に対しては、収縮力を回復させて、力が発揮しやすくしてやることが求められます。
前者の場合、刺鍼部位をできる限り伸展させておいたままの肢位で治療点に刺鍼し、その後短縮性収縮と伸張を反復させる運動を行って可動域を拡大させますが、後者についてはその逆で、刺鍼部位をできるだけ収縮させたままの肢位で治療点に刺鍼し、その後伸張性収縮と短縮の反復運動をさせ、収縮力の回復に努めます。
ロト鍼療法としては、前者の手法では、刺鍼してからコンセントリック(Concentric:短縮性)な収縮運動をさせることから、①コンセントリック運動鍼法(Concentric Needling)と名付け、後者については、刺鍼直後にエキセントリック(Eccentric:伸張性)な収縮運動をさせるので、②エキセントリック運動鍼法(Eccentric Needling)と名付けました。このように、2つの手法を使い分けながら鍼治療を行います。

図17:猫背姿勢(Forward Head Posture)
図17:猫背姿勢(Forward Head Posture)

②CN運動鍼法とEN運動鍼法の実際

★CN運動鍼法(Concentric Needling)(図18)

CN運動鍼法は、短縮性収縮固定されている筋や筋膜、皮膚上の治療点に対して、緊張を解き、弛緩させることで可動域を拡大させ、元の筋や筋膜の長さに戻すことを目的に行う運動鍼法です。
適応となる病態・症状は、伸展制限がある部位となります。
例:前屈制限のある腰痛の腰部に対する刺鍼。左屈曲制限のある頚部痛に対する、右頚部への刺鍼など。
手法)刺鍼部位の筋、筋膜、皮膚を、伸張させたままで刺鍼。その後、置鍼したままで、短縮性収縮→伸展→短縮性収縮→伸展(抜鍼)を随意的に繰り返えさせる運動鍼(図19)を行い、伸張させた状態で抜鍼する。
効果)伸張時の痛みの除痛効果。可動域の拡大、軽くなり、疲労感が抜けてスッキリした気持ちになる。
副作用)脱力感、一時的な筋力低下

図18:CN運動鍼法
図18:CN運動鍼法
図19:CN運動鍼法の作用機序
図19:CN運動鍼法の作用機序

★EN運動鍼法(Eccentric Needling)(図20)

EN運動鍼法は、伸張性収縮固定されている筋や筋膜、皮膚上の治療点に対して、収縮力を取戻させることにより筋出力の回復に努めることを目的に行う運動鍼法です。
適応となる病態・症状としては、屈曲や収縮に制限がある部位となります。
例:後屈制限のある腰痛の腰部に対する刺鍼。左屈曲制限のある頚部痛に対する、左頚部への刺鍼など。
手法)刺鍼部位の筋、筋膜、皮膚を、収縮させたままで刺鍼。その後、置鍼したままで、伸張性収縮→短縮→伸張性収縮→短縮→収縮(抜鍼)を随意的に繰り返させる運動鍼(図21)を行い、短縮させた状態で抜鍼する。
効果)圧縮時の痛みの除痛効果。力が入り易くなり、安定感が出る。動作に軸ができる。
副作用)重く感じるが、筋力低下は起こらない。

図20:EN運動鍼法
図20:EN運動鍼法
図21:EN運動鍼法の作用機序
図21:EN運動鍼法の作用機序

この手法の確立により、緊張部位に対してやみくもに弛緩だけを目的にした刺鍼刺激を与えるのではなく、筋や皮膚の回復目的に叶った鍼治療が可能となると同時に、浅く刺す鍼であっても、下層にある骨格筋の収縮に大きな影響を与えることが明確化されました。
このように、刺鍼刺激と筋の収縮様式との関係性(図22)を考慮した刺鍼法を行い、それにプラスして、軟部組織の滑走を促す回旋運動を付加することで、理想的な運動鍼療法ができるものと確信しています。

図22:筋の収縮様式と運動鍼法との関係)
図22:筋の収縮様式と運動鍼法との関係

③ ロト鍼療法本治法における法則

ロト鍼療法の本治法では、8つの法則が設けられており、それを守ったうえで施術を行うことで、誰にでも同じ治療効果を出せるようになります。

法則1.DLLからDSLの順で治療する法則

本治法においては、可動性を高めるDLLの治療から始めて、その後で安定性の機能であるDSLの治療を行うようにします。

 

法則2.内旋から外旋へ一方通行の法則

回旋の動きは、内旋から外旋へと一方通行で連鎖するため、治療も全て内旋側から外旋側へと進めるようにします。これは標治法においても同様で、この法則を遠隔部治療にも応用します。

 

法則3.遠近ペアでの治療の法則

DLLでの治療点は、手と対側の足の遠位部でのペアとし、DSLの治療点は、前肩と対側の鼠径部内側での近位部ペアとします。遠近のバランスも治療では重視します(図23)。

 

法則4.2ペアで針長差をつける法則

同じ針長の円皮鍼2つで1ペアを作り、それを2組作ります。2組のペア間には、必ず針長差を付けることで2つのペア(ファンクションライン)間に明瞭な刺激の差が生まれ、二者間で区分けができることになります。

・軽度の回旋障害で可動性を重視したい場合→2ペア間の針長差を大きく。

・重度の回旋障害又は安定性を重視したい場合→2ペア間の針長差を小さく。

 

法則5.遠位は浅く、近位は深くの刺鍼の法則

本治法では、DLLは遠位から、DSLは近位から治療点を検出しますが、遠位部の治療点(DLL)には短い円皮鍼での刺鍼、近位部の治療点(DSL)には長い円皮鍼を用います。
DLLには短い針を、DSLには長めの針を用います。

 

法則6.筋の収縮様式も考慮して刺鍼する法則

DLLのペアには可動性を高める目的でConcentricな筋収縮運動を行わせるCN運動鍼法を行いますので、刺鍼時には局部を伸展させます。DSLペアに対してはその逆で、安定性を高める目的で、Eccentricな筋収縮運動を行わせるEN運動鍼法を行いますので、局部を収縮させてから刺鍼するようにします。

 

法則7.刺鍼直後能動的に動かす法則

治療点に円皮鍼を貼付した直後は、受療者自ら能動的にその部位を動かすことで、皮膚と皮下組織、その下層の骨格筋との間で滑走が活発化し、可動域が広がると同時に円皮鍼による皮膚刺激が電気信号となって遠隔部や深層部へと伝達されることが期待できます。

 

法則8.円皮鍼は運動鍼法後に除去の法則

これまでの慣習のように円皮鍼を何日も貼付したままにはしません。ロト鍼療法では、円皮鍼を貼付したら直ぐに適正に動かし(運動鍼法)、回旋運動連鎖が解消されたと評価された時点で直ぐに除去してしまうようにしております。これまでの円皮鍼の活用習慣を変えていく決意をしております。

図23:遠近ペアでの治療法法則
図23:遠近ペアでの治療法法則

ロト鍼療法本治法による治療例

以上8つの法則を守った上でロト鍼療法を実施すれば、高い効果が期待できます。
詳細については、ダイナミックロト・セラピーeラーニング講座をご視聴下さい。